Sunday, August 2, 2015

見えないことが見えるとき When you see what you can't see


夜明けの空の飛行機




もう何年も前のこと。



芸術系の中学校でピアノを専攻していた長女が
クラスメートたちと一緒に
ニューヨークの由緒ある教会で開催されるチャリティーコンサートで
ピアノを弾かせてもらえることになりました。

長女にとっては初めてのニューヨーク。
私も付き添い父兄の一人として
3泊4日のNY旅行に
参加しました。






コンサート当日、
まだ人もまばらの会場で
父兄席に他の何人かの父兄と座っていると
リハーサルの時は元気だった長女が
控室で私に来てくれるように言っていると連絡がありました。

緊張でお腹でも痛くなったかなー

嫌な予感がして
控室に続く古い教会の石の廊下を走りましたが、
行っても行っても娘のいる部屋にたどり着けません。

悪いことばかりいろいろ頭で妄想しながら
焦りにあせって汗びっしょりで走り回っているうちに
とうとう開演時間になってしまいました。

仕方がないので
会場にまた戻り、
廊下まで溢れんばかりの人混みを強引に掻き分けて
やっとなんとか会場内には入れたものの、
オレンジ色の羽のついた大きな帽子を被った
ご年配の女性がどーんと私の行く手に立ちはだかっていて
それ以上はどうしても前に進めません。

そうしているうちに
娘の学校の生徒の
リハーサルで聴いた覚えのある曲が聞こえてきました。

間違えずに最後まで上手に弾けて、
拍手喝采!
長女の演奏はこの2曲後です。
それまでになんとか、
なんとかステージが少しでも見えるところまで...。







結局オレンジの羽の女性の横を潜り抜けることはできず、
アナウンスで紹介があった長女は
家で何度も練習したお辞儀がちゃんとできたのか、
お客さんから拍手があった後
聴きなれた長女の演奏が始まりました。

なんとかステージの長女を一目見ようと
私が背伸びをするたびに(←被害者妄想w)
目の前の大きな帽子が傾いて
オレンジの羽がちょうど邪魔して
ピアノのある場所が見えません。



背伸びをあきらめて。

長女の晴れ姿を見ることもあきらめて。

目を閉じて心を静めて、
聴こえてくるピアノの音だけに
神経を集中させました。

そしたら、
ピアノの音色とともに見えてきたのは
鍵盤の上の長女の細い指。
まっすぐ伸びた緊張気味の背筋。
真剣な横顔。
きゅっと閉まったままの唇。


目を開けると、
長女の指先から生まれた音は
ステージの上にあるはずの大きなグランドピアノからこぼれ出でて、
会場にいるお客さんの頭上を旋回しながら
どんどん浮上していく気がして、
ふと天井を仰ぎ見ました。

それまで気づかなかったけど
礼拝堂の高い天井には
息をのむような美しさのステンドグラス。

そして音はそのステンドグラスも通り抜け
その向こうに広がっているはずのニューヨークの夜空まで
ずーっとのぼって行ったような、
そんな気がして
曲が終わって拍手が起こるまで
ずっとそのステンドグラスに見入っていました。




 





 
あれから8年経った今日、
社会人への第一歩を踏み出す長女を
家族で空港まで送って来ました。

これからは彼女は私達が全く知らない世界で
一人でがんばることになります。

そんな帰り道で私がふと思い出したのは
娘が生まれた時でも
小学校の入学式でもなくて。

8年前のあの日の
おばさんの邪魔だったオレンジの羽と
強すぎる甘い香水の香り。
教会の宝石みたいなステンドグラス。

そして、
あの時確かに見えた
夜空に高くのぼっていった長女のピアノの音色でした。







心配もあるけどね、
どっちかというと
これから彼女を待ついろんな冒険に
猛然と立ち向かう長女を想像すると、
なんだかウキウキします。

これからは、
ニューヨークの時と同じで
助けてあげるどころか
そばで見守ることすらできないわけですが、
そんなの平気で
きっと一人でがんばるんだろうなー

まっすぐな眼差し。
背筋をしゃんと伸ばして
唇を結んだままで。

一生懸命生きる長女の真剣な横顔が
はっきり見える気がする ^^

ピーッス!で、行ってしまいました~^^


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